林明子さんの絵本から
2017.03
文:中村幸代
小雨の中、傘もささずにしゃがみこむ小さな女の子が、目の前の蟻に話しかけるように微笑んでいます。ほかにも、抱っこした子犬に頬をなめられて、嬉しそうにキュッと目をつむる、おさげの子。
これは、絵本作家 林明子さんによって描かれた女の子の絵です。
自分と自分以外の存在を比べたり区別したりせず、目を輝やかせて、生きていることを全身で喜んでいるような子どもの姿。その描写は、どこまでも純粋であたたかく「ああ、誰にでもこんな頃があったのだ」と、懐かしいような、切ないような気持ちに、じーんとしてしまいます。
いつから人は、自分を守ることに一生懸命になって、他を責めたり対立したり、排除したりする気持ちを持ってしまうのでしょう。
空や森、虫や動物・・・たくさんの宝物があふれているこの星に生まれたことを無意識に喜んで、自分以外の存在にも、とらわれのないまっすぐな瞳を向けられたあの頃を忘れてはいけない。林明子さんの絵を見るとそう思うのです。
なぜなら、私達大人も、生まれた時からずーっと、何かしら誰かしらの、自分以外の存在に支えられて、守られて、生かされてきたからです。自分のことだけで精一杯になってしまいがちな現代だからこそ、周囲の存在のありがたさをまっすぐに見つめられる、あの頃に通じる瞳を失ってはいけないと、そう思うのです。