TopicsEssay

森の妖精

2016.12
文:中村幸代

 「森には昔から妖精が住んでいて、その妖精と森を大切にすれば、たくさんの恵みや喜びをくれる。その喜びをみんなで分けたら、もっと大きな喜びになる...。」

 北欧では、親は小さな子供にそんなふうに話して聞かせるそうです。子供達にとって森はとても身近で、ある小学校からは徒歩5分で、もう森の中。そこで先生と歌ったり、秋にはキノコ狩り、ベリー摘みなどを楽しむそうです。森の実りは、誰でも収穫して良いという法律もあるそう。皆が森という大きな懐に包まれ、育まれているのですね。

 厳しい冬の氷に閉ざされてしまう前の短い秋に、妖精たちは樹々を色とりどりの美しい姿に変え、たくさんの実りを用意して、黙って迎え入れてくれます。デンマークの女性が、こんなことを語っていました。「悩んだとき、生きていく上でどう進んだらいいのか分からなくなったとき、森に行きます。その静寂な空気に包まれてしばらく過ごすと、自分にとって何が必要で何が必要でないか、わかってくるのです」と。

 日々の暮らしに精一杯になっていると、自然の営みという大きな時間が流れていることを忘れてしまいます。そして、目の前のことにとらわれて"もっともっと"、とアタフタしている小さな自分がいます。自分が原点に帰る身近な森はなくても、自然という大きな営みに、確かに生かされていることを忘れずにいられたら、しなやかな心で本当に必要なことを見つけることができるのかもしれません。今あることに少しずつでも感謝しながら。

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